朝日新聞で連載している評論は過去、思想の地層、「思想の地層」その2で報告してきたが、6月9日(火)に、「自民党の基盤 衰弱が生んだ政権独走」と題する記事が載っていたので、「思想の地層」その3として以下に紹介したい。
安保法制や原発重視など、現政権の政策には世論の支持がないものが目立つ。政権の未来はどうなるだろうか。
昨年8月の本欄にも書いたが、自民党は衰弱している。党員数は24年前の8割減で、衆院選得票数も大敗した2009年の数を回復していない。旧来の基盤だった町内会や商店会、各種業界団体の衰退を考えれば当然だ。
それでも選挙に勝てるのは、野党の分裂と公明党の協力に加え、投票率が低いためだ。自公が約3割の固定票を組織し、投票率が5割台なら、確実に自公候補が勝つ。09年衆院選のように、投票率が約7割に達し、野党が協力しない限り、自公には勝てない。
自民党の固定票は、政策ではなく、地縁や血縁などで集められている。05年に自民党新人候補の「山内さん」の選挙を撮影した想田和弘は、以下の逸話を挙げている。「山内さん」は先輩の自民党議員の紹介で、町内会を訪問した。町内会のリーダーは支持を確約したあと、「ところで山内さんの公約って何ですか?」と尋ねたという(想田「ニッポンの選挙には『議論』が不在」Journalism4月号)。
しかし反面、こうした自民党の基盤が強固だった時代は、世論と乖離した政策は強行できなかった。上記のような支持は、「勝手な独走はしないだろう」という暗黙の信頼を前提にしている。自民党議員も、地元民のそうした意向を知っていた。それゆえ、政権が世論と乖離した行動をすると、党内抗争という形でチェック機能が働いた。
ところが現在は、それが機能していない。自民党が衰弱したからだ。
12年衆院選で安倍政権ができたとき、自民党衆院議員の過半数は当選2回以下、3分の2は4回以下だった。
自民党の基盤が衰弱し、連続当選が難しくなったためだ。彼らは基盤が不安定なため、党の公認を取り消されることを恐れ、官邸の意向に逆らえない。同じく基盤が衰弱したため、派閥を作る力がある議員もおらず、派閥抗争もおきない。官邸に異を唱えるのは、地盤が強固な一部議員のみである。
つまり党が弱体化するほど、官邸の力が表面的には強くなる。
地方からの陳情も、自民党本部より官邸に集まっている。御厨貴「安倍政権の課題と展望」(潮6月号)は、有力なライバルも後継者もいない安倍政権は「向かうところ敵なし」だと述べている。
こうして政権は、民意と乖離した政策を強行できる。しかしこれは、いわば「裸の王様」状態である。表面的には強いが、その強さが、実は弱体化のために起きているからだ。
そして自民党にとって、危険な兆候も起こっている。県知事選の連敗である。その背景にあるのは、政権の独走に対する地方組織の離反だ。
自民党沖縄県連元幹事長だった仲里利信は、米軍基地の辺野古移設に反対し、「私たちこそ自民党である」と述べている。
自民党とは、地域の民意を尊重し、「郷土」を大切にする政治家の集まりだった。自分が辺野古移設に反対するのは、自民党の本来のあり方に忠実であるからだ。それなのに、民意と乖離して独走する最近の「自民党は変わりました」というのである(仲里「『オール沖縄』は戦争につながる一切を拒む」世界4月臨時増刊)。
こうした傾向を、沖縄の特殊事情と考えるべきではない。佐賀県知事選や大阪市住民投票でも、自民党の地方組織が離反して政権側が「敗北」した。自民党の中でも有力な地方組織ほど、地元民の意向をよく知っている。ゆえに有力な地方ほど、政権の独走に離反しやすい。それを政権が統制すれば、ますます自民党の基盤は衰退する。
戦後の自民党を支えたのは、有権者の「暗黙の信頼」だった。それを「白紙委任」と誤認すれば、「王様は裸」であることが、誰の目にも明らかになる日が来る。
安保法制の論議が大詰めだ。
参考人質疑に出席したのは、写真左から自民推薦の長谷部恭男・早大教授、民主党推薦の小林節・慶大名誉教授、維新の党推薦の笹田栄司・早大教授の3人。彼らはみんな穏健な思想の持ち主である。
共通するのは、解釈改憲による集団的自衛権行使容認に対する憤りだ。
「我々の共通点は、戦前生まれということだ」
会見冒頭、自民党幹事長や副総裁を歴任した山崎拓氏が切り出す。自民党時代「タカ派」として知られた亀井静香・衆院議員が「国会議員だけで国是を変更するようなことをやるわけにはいかない」「じじいだからといって、黙っておるわけにはいかん」と、いつものダミ声でぶつと、並んだ武村正義・元新党さきがけ代表や藤井裕久・元民主党幹事長の顔が緩んだ。
長老たちはなぜ、そろって「決起」したのか
亀井氏は「皆で飯を食ったら、日本は戦争に負けて以来、最大の危機に直面している、ということで一致した」。
滋賀県知事を務めた武村氏は「琵琶湖のほとりでのんびり過ごしているが、70年間の日本の平和主義を変えようとしている状況を見て、やって来た」。藤井氏は「(アメリカから)世界の警察官の半分くらいやってくれと言われて、安易に乗っかっていると思う」と批判した。
彼らには、それぞれ幼少期の戦争体験がある
広島出身の亀井氏は、入市被爆し、その後亡くなった姉に言及。山崎氏は地元・福岡の空襲で「天井を突き抜けて焼夷弾が落下してきたが、不発弾だったので命が助かった」と語り、「いまの自民党の政治家は、ことごとく戦争を知らない世代。安全保障に関心がなく、勉強しない。党内で議論が成り立たない状態になっている」と話した。
会見では、自民党の変化についても話題になった。藤井氏は「変わってしまったが、まっとうな人もいる」と話したが、山崎氏は「上を見ているヒラメばかり。安倍政権の権力にひれ伏している」として、古巣の現状を憂えた。(朝日新聞より)
それでも、菅義偉官房長官は12日の会見で「意義をご理解いただけないのは残念だ」と述べた。審議への影響については「(山崎氏は)すでに辞めて議員バッジを外された方。全く影響はないだろう」と語ったそうだ。
相変わらず、国民の反応を無視した能天気ぶりだ。
「積極的平和主義」という言葉にとても胡散臭さを覚える。
たとえば、戦争に加担する法律を作るのに、なぜ、「平和のため」という言い方をするのか。
そして、国民はその言い方にはごまかしが入っていると気付いているはずなのに、なぜ、消極的にでも受け入れようとしているのか。
安倍政権は大きな顔をしてやりたい放題。それなのに国民の多数は、この政権を支持している。日本人はバカになってしまったのだろうか。
この危機的状況の根底には反知性主義が蔓延している、との危機意識にもとづき、現代の知性が集結した本が出版されている。
この危機的状況の根底には反知性主義が蔓延している、との危機意識にもとづき、現代の知性が集結した本が出版されている。
編者の原稿依頼に応じて、白井聡、高橋源一郎、赤坂真理、平川克美ら、9人の論客が、それぞれの立場から知見を述べている。
タイトルはリチャード・ホーフスタッターの名著「アメリカの反知性主義」から取られた。
タイトルはリチャード・ホーフスタッターの名著「アメリカの反知性主義」から取られた。
反知性主義とは、知性の欠如ではなく、知性への憎悪を意味する。知的情熱や理想主義がときに最悪の反知性主義を生み出すから始末が悪い。反ユダヤ主義しかり、マッカーシズムしかり。
では、現代日本の反知性主義とは? 論者によって定義はまちまちだし、論点もさまざまだ。
では、現代日本の反知性主義とは? 論者によって定義はまちまちだし、論点もさまざまだ。
政治家の暴言、へイトスピーチ、ヤンキーの跋扈、マスコミの論調への付和雷同、歴史の軽視…。反知性主義的社会現象も多様。だからこそ、複数の視点が意味を持つ。 複眼的論考が教えてくれる大事なこと。それは、反知性主義は他人事ではなく、うかうかしていると無自覚のうちに取り込まれるということだ。バカになりたくない日本人、必読の書である。