日本語は厄介な言語だ。はっきりした定義が無く、曖昧な言葉が多い。
それは、音楽の世界でも言えることで、第814話:歌・唄・詩で紹介したが、「恋・愛」(Love)、「青・蒼・碧」(Blue)、「歌・唄・詩」(Song) の区別はつきにくい。
流行歌と歌謡曲、演歌の違いも資料によって微妙に定義が違う。
昭和初期、大衆音楽の世界は、レコード各社の専属作家が活躍。外来音楽に、端唄や都々逸)などの日本的音楽要素を交配させては新しい音楽を生み出し、それらはおしなべて「流行歌」という名の大きな風呂敷に包まれていた。
ただ戦後の高度成長で人々の生活様式や価値観が急変。音楽でもグループサウンズやフォークなどが登場した。結果、地方への郷愁を歌う「田舎調」(曲例「達者でナ」)や「浪曲調」(同「王将」)、夜の巷で歌われた「流し歌」(同「お座敷小唄」)などが入った風呂敷が相対的に古くなった。
音楽評論家の北中正和さんは「発展を支えた人々の一部はそんな変化に戸惑い、一昔前に懐かしさを覚えた」と指摘。「その思いをすくう形で、流行歌の一部が『演歌』の名でジャンル化した」。
それは明治期の自由民権運動下で活躍した壮士が、路上で歌って演説した演歌とは別物だ。
と、締めくくっている。
代表的な演歌を聴いてみよう。
森進一/ひとり酒場で(1968年)
都はるみ/大阪しぐれ(1980年)
藤圭子/圭子の夢は夜ひらく (1970年)
石川さゆり/津軽海峡冬景色(1977年)
八代亜紀/雨の慕情(1980年)
五木ひろし/倖せさがして(1980年)