衆議院解散後の動きには毎日眼が離せない。安倍首相は「国難突破解散」などと無理やりその理由を取り繕って見せたが、随分国民も舐められたものだ。今回の選挙は「安倍首相が行った自分や友達のための政治ではなく、国民のための政治の是非を問う選挙」である。
森友・加計疑惑は解散でみそぎになるものとし、この時期に解散するのは、Jアラートで緊急事態を煽っていた北朝鮮問題が、どうやら米国と北朝鮮の出来レースによる戦争ごっこであり、少なくとも今は喫緊の事態ではなかったことを証明したようなものだ。
「窮鼠猫を噛む」ー政権維持は安泰とばかり安心して解散したものの、野党の再編の動きにによっては「政権交代」が現実のものになりかねないほどのうねりが起きてしまった。
これほど腐った安倍政権にはうんざりしている。しかしこのままだと増々国民の政治離れが進み、投票率はさらに落ち、組織票の固い政党のみが生き残るという思うつぼにハマり、悪循環を繰り返すことは見えていた。
おごり高ぶった政治にお灸をすえるには「泥縄」と非難されても政権交代の受け皿は必要である。ジリ貧の民進党ではもはやその役割は果たせないと思い暗澹としていた。
今度の合従連衡には賛否両論があり、詰めの甘さはあったとしても、「名を捨てて実を取る」と言った民主党・前原代表(55歳)の大胆な決断に敬意を表したい。
もちろん、希望の党については不満だらけである。小池氏が何を目指しているのかまだよく分からない。
それにしても、まだまだこれから公示の10月10日までは一波乱も二波乱もあるだろう。不安な点、危うい点は幾つもある。
●希望の党の政治姿勢
小池百合子代表(65歳)が過去に日本会議に属していたこと、側近の顔ぶれ、この人もまた日本会議国会議員懇談会に属している右翼の「日本のこころ」中山恭子代表(77歳、写真右)を受け入れたこと。
しかも、中山代表は、つい3か月前、7月2日実施の東京都議会議員選挙にはわざわざ自民党の公認候補者60人全員に推薦を出したのに、どうして希望の党なのか不思議でならない。
人間はとかくちょっとしたことで本性が見えて来るものだ。これが小池氏の本性かもというのが一番心配だ。
その夫である舌禍事件で有名な中山成彬氏(74歳、写真左)が希望の党から出馬予定だと聞くと、また極右政党の誕生かと不安が高まる。
それが、たまたま今読んでいる本に彼が登場していたので、その政治姿勢の一端を紹介したい。
その本の名前は、柳田邦男(81歳、写真左)著「生きなおす力」(2009年、新潮社、写真右)。
問題の箇所は「傲慢ヤマトよ アイヌに学べ」の章、政治家の問題発言のページにある。恐るべき無知と思い込みの御仁である。
2008年9月24日に発足した、麻生政権の国土交通大臣に就任したばかりの中山成彬氏が前日の記者会見で言いたい放題の発言内容は次の通り。
(1)(国交省本来の課題に対する質問に答えている中で話題をずらして)「ついでに言えば、大分県の教育委員会の体たらくなんて日教組ですよ。日教組の子供なんて成績が悪くても先生になる。だから大分県の学力は低いんだよ」、云々といった日教組批判。
(2)(観光政策にからんで、外国人旅行者をどう増やすかについて)「外国人を好まないというか、望まないというか、日本はずいぶん内向きな、単一民族というか、世界とのあれがないものだから内向きになりがち」、云々。
(3)(成田空港の拡張が進まないことに関して)「(地主の)ごね得というか、戦後教育が悪かったと思うが、公のためにはある程度自分の犠牲にしてもというのがなくて、自分さえよければという風潮の中で、なかなか空港拡張も出来なかったのは大変残念だった」、云々。
彼は政権発足後の9月28日に辞任、正に「三日天下」だった。懲りない人だ。そんな人がゾンビのように蘇ることが怖い。
そしてもっと怖いことがある。果たして今の内閣だとこの発言だけで辞任に追い込まれるだろうかということだ。
ところで、9月26日夜、小池都知事(写真中)と民進党の前原代表(写真左)、それに連合の神津会長(61歳、写真右)の3人が会談し、その席で統一名簿の政治団体の名前を「希望」とすることや、小選挙区の候補者についても、基本「希望の党」公認として立候補することで合意したという話を聞くと、いやしくも労働者の代表である連合と手打ち式を行ったのだから、自民党より左右のウィングを広げているのかとも思わせたが、どうもそれは違うようで、連合の神津会長も残業問題に続き恥をかかされたようだ。
小池都知事は29日朝「全員受け入れる気はさらさらない」と発言。
民進党を離党し、希望の党結党の一翼を担った細野議員も、野田元総理や菅元総理らを念頭に、“三権の長“の経験者の合流に難色を示している。
さらに、岡田元代表や海江田元代表、長妻元厚労相、辻元議員らの名を記した“排除リスト“なるものも永田町には出回っているのだという。
大体、3人で話がついたとしても、前原氏が公約としていた「消費税増税」と、連合の反対がネックだった希望の党の「脱原発」の公約の整合性が取れたのだろうか。
最近は彼女のキャッチフレーズの「緑」とまるちゃんの即席めんの「タヌキそば」に模して、「赤いキツネ、緑のタヌキ」と呼ばれているようだ。(写真)
実は用意周到で、かねてよりこのチャンスを狙っていた節がある。「希望の党」という党名自体今年の2月に商標登録を申請していたというから驚く。(写真)
そして、30日には東京、大阪、愛知の知事が与党と対立して選挙戦に臨むことが決まり、大都市圏の首長が共闘を表明したことで、与党との対立構図がより鮮明になった。
三者会談後、3人はそろって会見。(写真)衆院選では東京と大阪で候補者をすみ分けることで合意したと明らかにした。
小池氏は、東京では日本維新が小選挙区で候補者を出さず、大阪では希望が候補者を擁立しないと説明。「すみ分けながら、改革の志を国会に届けようということを確認した」と述べた。
キャッチフレーズを作るのも得意だ。会見に先駆けて配布した資料には「三都物語」と題して〈1〉しがらみのない政治〈2〉身を切る改革〈3〉真の地方自治の推進の3点を柱に、2019年10月に予定される消費税10%への引き上げ凍結や憲法改正、原発ゼロなどを共通政策に掲げた。
希望の党の結党宣言は9月27日に14名の現職国会議員が参加して行われた。(写真)このメンバーを見ると、右から左へと幅広い陣容であることが分かる。
希望の党の綱領は以下の6項目で、細野豪志衆議院議員が読み上げた。
我が党は、立憲主義と民主主義に立脚し、次の理念に基づき党の運営を行う。常に未来を見据え、そこを起点に今、この時、何をすべきかを発想するものとする。
1 我が国を含め世界で深刻化する社会の分断を包摂する、寛容な改革保守政党を目指す。
2 国民の知る権利を守るため情報公開を徹底し、国政の奥深いところにはびこる「しがらみ政治」から脱却する。
3 国民の生命・自由・財産を守り抜き、国民が希望と活力を持って暮らせる生活基盤を築き上げることを基本責務とする。
4 平和主義のもと、現実的な外交・安全保障政策を展開する。
5 税金の有効活用(ワイズ・スペンディング)の徹底、民間のイノベーションの最大活用を図り、持続可能な社会基盤の構築を目指す。
6 国民が多様な人生を送ることのできる社会を実現する。若者が希望を持ち、高齢者の健康長寿を促進し、女性も男性も活躍できる社会づくりに注力する。
そして、政策は。
1 希望の政治…①しがらみのない政治 ②議員定数・議員報酬の縮減 ③行政改革・徹底した情報公開 ④真の地方分権の確立
2 希望の社会…①女性政策など ダイバーシティ政策の確立 ②多様な教育(奨学金、高度研究、生涯教育)
3 希望の経済…①消費税対応 実感できる景気回復の実現 ②ポストアベノミクスにかわる成長戦略 不動産の有効活用 AI 金融
4 希望を守る環境・エネルギー…①原発ゼロとゼロエミッション社会への行程作成 ②フードロス対策など
5 憲法改正…①希望溢れる日本の礎
この14名のうち、直接民進党から入党したのは8名だが、細野氏以外は全員民進党から除名(除籍)処分を受けている。中には比例代表ということもあり、辞職勧告まで受けた議員もいる。考え方も長島氏のように右派もいれば、後藤氏のような左派もいる。
その後に、解党目前の民進党議員の多くが参加してくる。お互い面白いはずがないだろう。
いわばごった煮の状態で、元通りの仲でやっていけるのだろうか。
●自分の考え
自分は拙ブログ「リベラル保守」宣言でもお伝えしたように、中島岳志著「リベラル保守」宣言(2013年、新潮社刊、写真)の主旨に共感している者だ。
だから本当は保守勢力が増えることは好まない。世界的に内向きな勢力が増え、日本も例外ではないことは認めるが、前原氏が民進党代表選挙で言った「日本は保守が70%」というのは信じていない。
ただし、今は保守だリベラルだ、革新だ、云々の定義があいまいになり、本来保守は新自由主義とは矛盾しているので共存できないはずなのに、平気で行っている有様だ。
自分はこう考えている。
今では大分収れんされてきたものの、自民党が「国民政党」と呼ばれていたころは、とても左右のウィングが広かった。今でも「公明党」との政策の差は大きいはずだ。
当時は反動的な政策をしようと思えば党内のバネが効いて、無茶なことが出来なかった。今は大方の国民が反対していても、党内バネが弱いので強引な手法が取れる。
それに加え、小選挙区制のため、少数意見が圧殺される。先の衆議院議員選挙では比例では33%しか取れなかった自民党が61%の議席を獲得したのはそのせいである。
だから、「希望の党」が受け入れる議員に対して左右のウィングを広げても「野合」と糾弾される筋合いはない。また、その場合もドミノ現象で、都議会選挙のように自民党惨敗が起きる可能性は夢物語ではない。
とは言うものの、一選挙民からすると保守同士の2大政党は要らない。
第3の軸として、民進党のリベラル派は社民党や共産党と組んで「リベラル結集」を図って欲しい。
新党でも無所属でもいいいが、今や少数勢力となった「社民党」になだれ込む手もあるのではないだろうか。そして、今回はムリだろうが、そろそろ日本共産党も名前を変えるべきだ。どうしても「共産主義」に対してはアレルギーを持つ人が多いことも事実で、表紙も重要だ。
このままでは「小池旋風」により、政権を取る可能性すらある。そのとき、これまで「安倍一強」といったことが「小池一強」となり、小池氏の独裁になるのも怖い。その兆しはある。
物事は中庸がいい。弱肉強食の新自由主義は日本の持っていた良さを壊してしまう。
選挙の争点はこんなものだろうか。黄色の網掛けが私見での重要課題である。
選挙前の、この次のターニングポイントは10月3日にも行われるという、希望の党の第一次候補者調整と、10月5日の東京都議会の閉会で、小池党首が選挙に打って出るかどうかということだ。
「二足のわらじ」という批判の多い、地方自治体の首長が党首を兼任する例は、実は今の日本維新の会の松井大阪府知事でも同じことなのだが、過去には飛鳥田一雄横浜市長(190年、75歳で没、写真)が社会党党首を兼任したことがある。
なお、1978年の首班指名選挙で社会党は党首である飛鳥田委員長が非国会議員のため、副委員長の下平正一に投票した。
今、安倍首相も枕を高くして眠れない日が続いていることだろう。
最後はこの曲で。ちなみに「希望の党」とは何の関係もありません。
岸洋子/希望(1970年)