今年は「明治維新から150年」という記念すべき年で、復古主義が危惧されてはいるものの、全国で様々なイベントが行われているようだ。
●登紀子 1968年を語る
彼女にとって1968年は人生の大きな節目に当たる年だった。
そこで、当時の学生運動のリーダーだった藤本敏夫(1944-2002年、58歳で没、写真右)と出逢い、1972年に獄中結婚をし、2002年に肝臓がんで亡くなるまで、人生の苦楽を共にした。
件の書で、近藤伸朗の「登紀子さん自身にとっての1968年は、どういう年でしたか?」という質問にこう答えている。
「私は1968年という年によって、本当の歌手になったと思っているんです。もちろん、デビューは1965年なので、それまでも毎年いろんな人と出会い、いろんな歌をうたい、いろんな体験をしているわけだけど、歌手加藤登紀子のスタート68年だった。そのことに大きな意味があると、このごろ強く思うの。人には誰でもその人の核となるものが運命的にあると思う。私の場合は1968年だったわけね」
彼は、1962年生まれ、もちろん1968年を知らない世代だ。
上巻のサブタイトルは「若者たちの叛乱とその背景」。団塊の世代の幼少期の時代的文化的背景から説き起こして、安保闘争から日大闘争、安田講堂攻防戦までを、高度成長期への集団的摩擦現象として描く。
下巻は「叛乱の終焉とその遺産」。新宿事件、高校闘争、内ゲバ、爆弾事件、べ平連、リブ、そして連合赤軍。「あの時代」の後半期に起きたパラダイム転換は、何を遺したのか。後世への真の影響を初めて明らかにし、現代の「私たち」の位置を逆照射する。
●メッセージ曲「1968」
前作で紹介したが、この4月に発売された、自叙伝「運命の歌のジグソーパズル」(2018/4/20、朝日新聞出版)と、2枚組CD「加藤登紀子/ゴールデン☆ベスト」は、「1968年から50年」を意識したものだ。
「運命の歌のジグソーパズル」の中で、こんなことを述べている。
「1968年は、パリではソルボンヌの学生たちが五月革命、チェコではプラハの春、そして日本では安保闘争と、世界中で学生運動が盛り上がった。あの時、願ったことは間違っていなかったと、いまも信じています。いま各地で戦争が起こり、日本も戦争に巻き込まれるかもしれない。そんな不安の時代に、もう一回奮起しようよという気持ちが私にはあります」
アニメーション映画「紅の豚」でジーナとして歌った「さくらんぼの実る頃」、ベトナムの歌「美しい昔」や、韓国の「鳳仙花」、反戦歌「花はどこへ行った」など歴史的な歌の背景のエピソードは、貴重な記録でもある。
CD「加藤登紀子/ゴールデン☆ベスト」の収録曲には、代表作「知床旅情」にも「百万本のバラ」にも、運命的な時代の熱いメッセージが込められている。収録曲はそのよく知られた曲だけでなく、フィリピンのヒットソングやベトナム戦火のなかで歌われた歌、ポーランドでナチスと戦ったパルチザンの歌など多彩だ。
この中の曲で「1968」は2008年末の「ほろ酔いコンサート」で発表されたものである。これには、コンサートの後、たくさんの反響が寄せられたという。
*ここで、「エージェントオレンジ」とあるのは、米軍が撒いた枯葉剤のこと。ダイオキシンが含まれ、ベトナム戦争ではベトちゃん、ドクちゃんなど多くの犠牲者を生んだ。
加藤登紀子は、1968年を挫折や敗北として思い出すのではなく、スタートだったと思うことにしているのだ。
●1968年(昭和43年)の出来事
当時自分は19歳。受験戦争から解放されて大学に入学したばかり。3億円事件(12月10日)もあった1968年は、世の中が騒然としていた。
■ベトナム戦争
1964年にジョン・F・ケネディ大統領が凶弾に倒れたのち、それまで副大統領だったジョンソンが大統領に就任し3年が経ったが、戦況は全く好転せず、年初から「テト(旧正月)攻勢」と呼ばれる南ベトナム全土で解放勢力の大攻撃が始まった。
その直後の3月、南ベトナムのソンミ村で米軍による無抵抗の村民504人に対する大虐殺事件が起きた。これがさらに、ベトナム反戦運動に火を注いだ。
ジョンソン大統領は、北ベトナムへの爆撃(北爆)の部分的停止を一方的に宣言、北ベトナムに対する和平交渉を呼びかけ、次期大統領選への不出馬を表明せざるを得なくなった。
その有力大統領候補だったロバート・ケネディ上院議員は6月5日に暗殺されてしまった。
■世界の解放運動
・公民権運動の黒人運指導者で、キング牧師の名で知られたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(1929-1968年4月4日、39歳)が撃たれて死亡。全米に黒人の抗議闘争が広がった。
・1月5日、チェコスロバキア共産党第一書記にドブチェク選出。「プラハの春」が始まったが、 8月ソ連を中心とするワルシャワ条約機構軍が侵攻。年初から続いた自由化の動きは封じられた。
■全世界で学生運動が勃発
学生運動は、「スチューデント・パワー」とも呼ばれ、1960年代末世界の至るところで起きた。
・5月:フランスで5月革命。ソルボンヌ(パリ)大学で学生と警官隊が衝突、全国的なデモやゼネストに発展した。
・日本では「ゲバ」 「ゲバ棒」「大衆団交」 「ノンセクト」「ノンポリ」などの流行語を生んだ学生運動だった。
加藤登紀子/一人寝の子守唄(1969年)
加藤登紀子/この空を飛べたら(1978年)
加藤登紀子/難破船(1987年)
加藤登紀子/百万本のバラ(1987年)
加藤登紀子/時には昔の話を(1992年)
「おときさん」コンサート、また行くからね。