「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがある。「欲を出して同時に二つのことをうまくやろうとすると、結局はどちらも失敗すること」のたとえである。
同じ意味の言葉として「 虻蜂取らず」「一も取らず二も取らず」「心は二つ身は一つ」「大欲は無欲に似たり」「花も折らず実も取らず」などがある。
英語にも「If you run after two hares, you will catch neither.」「He that hunts two hares loses both.」「Between two stool the tail goes to ground.(二つの腰掛けの間で尻餅をつく)」ということわざがあるそうだ。
しかし、世の中にはそんな戒めにはものともしない、いわゆる「二刀流」と呼ばれる規格外の人たちが存在する。
野球界でいえば、今年MLBのロサンゼルス・エンゼルスに入団した大谷翔平(23歳、写真)。
投手と打者を共に本格的に行う二刀流であり、2014年にはNPB史上初となる「2桁勝利・2桁本塁打」(11勝、10本塁打)を達成。翌2015年には最優秀防御率、最多勝利、最高勝率の投手三冠を獲得。翌2016年には、NPB史上初の「2桁勝利・100安打・20本塁打」を達成。投打両方で主力としてチームのリーグ優勝と日本一に貢献し、NPB史上初となる投手と指名打者の2部門でのベストナインの選出に加え、リーグMVPに選出された。
今年のMLBのテレビ観戦に楽しみが一つ増えた。
知将といわれるロサンゼルス・エンゼルスのマイク・ソーシア監督(59歳、写真)の采配にも注目だ。
それでは投手と打者の二刀流が前代未聞かというとそうではない。
■景浦將
プロ野球創世記の戦前まで遡ると、景浦將(かげうらまさる、1915 - 1945年、29歳で戦死、写真)がいる。
日本プロ野球史上に残る伝説の選手の一人で、阪神ファンの間では「零代ミスタータイガース」とも呼ぶものもいるという。
初代四番三塁手のスラッガーとして打棒を振るい、タイガースの中心打者として沢村栄治(東京巨人軍、1917-1944年、27歳で戦死、写真)と名勝負を繰り広げた。
ちなみに、二人とも30歳未満に亡くなった有名人を特集した、拙ブログ夭折の有名人のうちのひとりである。
プロ野球最強軍団が大阪タイガースであった時代。沢村栄治のライバルで、「東の沢村、西の景浦」、「職業野球は沢村が投げ、景浦が打って始まった」と言われたが、あの沢村をもってしても抑えられない存在として、当時東京巨人の監督であった藤本定義が「史上最強打者」と評していた。
人員不足から投手としても登板した。投手としては、1936年秋季に防御率0.79(歴代2位の記録)で最優秀防御率、6勝0敗の勝率10割(歴代1位の記録)で最高勝率を獲得。1937年春季、投手としては規定投球回数を満たし防御率0.93で沢村に次ぐ2位となり、同年秋季は打率.333で首位打者にも輝いた。
最優秀防御率と首位打者の双方を記録したのは現在に至るまで景浦が唯一である。またこのシーズンの出塁率.515は1974年の王貞治に次ぐ歴代2位の記録である。1938年春季に2度目の打点王。守備でも強肩でピンチを救った。
1973年から2014年まで『ビッグコミックオリジナル』(小学館)にて連載された、水島新司(現在78歳)による人気野球漫画「あぶさん」(画像)。
その主人公・景浦安武のモデルは、現役時代「酒(主)力打者」の異名をとるほどの酒豪として知られた近鉄の永渕洋三(75歳)といわれているが、彼も景浦安武のモデルとなった一人としても知られている。なお、永渕も当初は野手と投手の二刀流だった。
■西沢道夫
西沢道夫(1921 - 1977年、56歳で没、写真)は、初代「ミスタードラゴンズ」(2代目は高木守道、3代目は立浪和義)である。また、「文ちゃん」(ブンちゃん)の愛称で親しまれ、投手・打者として活躍した。
後年の二刀流・大谷翔平のような投手・打者の同時進行というわけではないが、投手として20勝(1940年)、打者として40本塁打(46本塁打、1950年)の双方を記録したのは日本プロ野球史上では西沢だけである。
関根潤三は、打者で1000本安打・投手で50勝を記録2リーグ制以後唯一であり、1リーグ時代を含めても他に中日などで活躍した西沢道夫しか達成していない記録である。またオールスターゲームでは初めての投手・野手の両方でのファン投票選出を記録した。引退後は広島・巨人のコーチ。その後大洋、ヤクルトの監督を歴任した。
とかく外野からはやっかみもあるのかも知れないが、大谷翔平の二刀流についての批判は多い。
『「不可能」の反対語は「可能」ではない。「挑戦」だ』という名言があるように、その挑戦にかける大谷選手の意気込みは素晴らしいと思う。
MLBでの金字塔を目指し、頑張って欲しい。(Wikipedia 参照)