日本の首相が米大統領選挙に勝利した候補者と大統領に就任する前に会談するのは極めて異例のこと。
この早い会談には賛否両論が渦巻いているが、その内容が発表されていないので何ともコメントできない。
自分は今のところこの早い会談には反対だ。大手マスコミは一様に提灯記事を載せていたが、何の成果があったのだろうか。元々安倍首相は私用で出かけているのではないのだから、帰国後なんらかの報告をすべきである。
各国に先駆けたとあるが、「慌てた」というべきで、主要国はこんな時期に会談するのを拙速として避けただけではないだろうか。
それにしても安倍首相が「信頼関係を築くことができると確信が持てる会談だった」と言っているのが気になる。
日本にとって気になる発言が続いていたというのに、そんな短時間で信頼関係が築けるものなのか。TPP反対は撤回するとか、思いやり予算は理解したとか言ったとすれば別だが…。
エレベーター:5分玄関で靴を脱ぐ:5分会談部屋の案内:10分参加者の紹介:10分ヒラリーの悪口:10分自慢話:10分お土産交換:10分ゴルフ話:10分写真撮影:10分会談の中身:10分 ーだとさ。
早速アメリカでは、トランプ次期米大統領が安倍首相と会談した際、長女イバンカ氏(35歳)らを同席させたことに「政治の私物化」との批判が出ている。ニューヨーク・タイムズ紙は「(政治とビジネスの)利害対立の可能性」と指摘。米フォーチュン誌はイバンカ氏に国家の機密情報にアクセスする権限がない点も問題視している。
●トランプは選挙には勝ったが、得票数では負けた
トランプ次期米大統領の政権人事については、さながら「既得権益べったりの政治のプロ(ワシントン派)」と、「商売優先の政治シロウト(ニューヨーク派)」、さらには「政治能力は未知数の家族(トランプファミリー派)」の様相を呈して混乱しているようだ。
こういう事を「トランプゲーム」(画像)というのだろうか。
デモをする人たちの気持ちは分かる。トランプは選挙に勝ったが、得票数ではクリントンに負けていて国民の声を正確に反映していないからだ。それも100万票も離されて…。
あまりに考え方の違いが表面化して、アメリカの亀裂は深い。(図)
まだ大統領選挙の集計は続いているようだが、全米での得票数は日本時間11月15日夕現在、クリントン氏が約6132万票、トランプ氏が約6053万票で、得票率に換算すると、クリントン氏が0・7ポイントほどリードしている。
得票率とは違う結果になったわけは、大統領選の仕組みにある。
大統領選は各州に割り当てられた計538の選挙人を勝者総取り方式(2州を除く)で積み上げ、過半数の270人以上を獲得した方が勝者となる。このため、各州ごとの勝敗の予測が重要だった。
今回のトランプ勝利を決定づけたのは、これまで民主党の地盤と思われていた北部の産業州。その筆頭格は、ミシガンでありオハイオ、ペンシルバニアである。逆転劇を支えたのは、トランプを支持した白人層の投票率が大幅に上昇し、マイノリティーのそれが伸び悩んだことだ。
これまで、共和党が南部と中西部、民主党が北東部と太平洋岸と北部という組み合わせで戦われてきた米国政治が構造的に転換する可能性を秘めている。
●過去にも選挙には勝ったが、得票数では負けた例はある
今から16年前のことでまだ記憶に新しいが、2000年11月7日に行われた米大統領選挙は、民主党のビル・クリントン大統領の2期の任期満了後、共和党のジョージ・W・ブッシュが、民主党の現職副大統領アル・ゴアを破って当選した。
開票に関する係争期間中、両候補の獲得州を示す地図が繰り返しマスメディアによって流布されたことから、この選挙においてメディア各社が用いていた色分けを用いて赤い州・青い州という概念が形成された。それに対して、フロリダ州のような両派の拮抗する州はスイング・ステート(激戦州)と呼ばれるようになった。
アメリカ合衆国史上で最も接戦となった選挙のうちの1つである。一般投票で敗北し、選挙人投票で勝利した候補が大統領となるのは、ベンジャミン・ハリソン(1901年、67歳で没、写真)が当選した1888年の大統領選挙以来112年ぶりのことであった。
開票においては、票の読み取りに問題があったフロリダ州の結果が判明するのに非常に長期間を要し、最終的には選挙結果をめぐり法廷闘争(ブッシュ対ゴア事件)が展開されるなど、混乱も生じた。最終的には、一般投票で過半数を獲得できなかったブッシュが接戦だったフロリダ州を制したことで大統領選挙人投票で271対266の僅差で勝利、次期大統領となることが決定された。(Wikipedia参照)ゴアが当選していれば、イラク戦争は無かったかもしれないと思うと、残念だ。
●マスコミの選挙結果の読み間違い
選挙予測が外れた理由について、いくつかの可能性が指摘されている。
米大手調査機関ピュー・リサーチ・センターは、①非回答バイアス②恥ずかしがり屋のトランプ支持者③有権者が投票に行く可能性の見誤り―の三つを理由に挙げている。
選挙予測で定評のあるサイト「538(ファイブサーティーエイト)」は投開票日直前の8日、最終予測として、クリントン氏の勝つ確率を71・4%とした。米紙ニューヨーク・タイムズのデータサイト「アップショット」はより高い85%と予測。ハフィントン・ポストなど95%以上とするサイトも複数あったという。
こうした予測は、各種世論調査でクリントン氏がリードしている情勢を分析して反映させたものだった。しかし、肝心の州単位の世論調査で精度が低かったからだという。
●女性に嫌われたヒラリー 敗因は“夫隠し”と“パンツスーツ”(日刊ゲンダイ11月19日号)
米CNNテレビの出口調査によると、白人女性の53%がトランプに投票していたという。
トランプは、女性蔑視発言が物議を醸した男性だ。ワンマン経営者で、2度の離婚歴がある肉食系。マンガになりそうなぐらい男っぽい。そんな相手に対しても、女性からの支持でリードを奪えないのだから、えらく嫌われたものである。
女性の活躍推進が叫ばれる日本では、今後、女性管理職が増える見込みだ。だが、クリントン氏のように女性から嫌われるタイプを管理職に据えれば、組織はガタガタになりかねない。いったいなぜ、クリントン氏は女性に嫌われたのか。どこに嫌われる要素があったのか。
家族問題評論家でNGO「Girl Power」代表理事の池内ひろ美氏は、こう言う。
「彼女は、若い女性のロールモデル(模範となる人物)になれなかったのです。選挙終盤、夫のビル・クリントン氏を応援演説に立たせず、有名人を呼んで話をさせました。夫の添え物ではないことを強調したかったのかもしれませんが、多くの女性は、夫が援護してくれないような妻にはなりたくありません。女性は男性に支えられて輝き、男性は女性に支えられて輝くのです。元モデルの妻や前妻との間にできた娘を登壇させたトランプ氏の方に、女性は共感したんでしょうね」
クリントンのファッション、特に選挙終盤に見せたパンツスーツ姿(写真)も、女性に嫌われる要素という。
「女性が男性よりも優れているのは共感能力とバランス感覚です。女を売りにせず、女を否定しない。そんなスタンスの女性は、周囲の女性にも好かれます。パンツスーツは、女性を売りにしていない表れになるでしょうが、どうしてもオバサンぽさが強調され、女性らしさに欠ける。女性を否定していると、とられかねません」
「彼女は、若い女性のロールモデル(模範となる人物)になれなかったのです。選挙終盤、夫のビル・クリントン氏を応援演説に立たせず、有名人を呼んで話をさせました。夫の添え物ではないことを強調したかったのかもしれませんが、多くの女性は、夫が援護してくれないような妻にはなりたくありません。女性は男性に支えられて輝き、男性は女性に支えられて輝くのです。元モデルの妻や前妻との間にできた娘を登壇させたトランプ氏の方に、女性は共感したんでしょうね」
「女性が男性よりも優れているのは共感能力とバランス感覚です。女を売りにせず、女を否定しない。そんなスタンスの女性は、周囲の女性にも好かれます。パンツスーツは、女性を売りにしていない表れになるでしょうが、どうしてもオバサンぽさが強調され、女性らしさに欠ける。女性を否定していると、とられかねません」
●日本はトランプとどう向き合ったらいいか
トランプ氏、どうつき合う イアン・ブレマー氏らに聞く(朝日新聞11月19日号)より、東京大学教授・古城佳子さん
就任前の次期米大統領に日本の首相が会うのは前代未聞です。トランプ氏は選挙戦を通じ、日本を繰り返し批判してきましたが、他国の指導者に先駆けた会談後、安倍首相は「信頼関係を築ける」と述べました。また、トランプ氏が当選すれば暴落すると言われていた株価は逆に上昇し、市場はトランプ政権を歓迎しているかのようです。
安心してよいのでしょうか?まだ、安心するのは早計です。一喜一憂せず、冷静に考えたいと思います。
第2次大戦に至る過程を考えてみて下さい。ウォール街の暴落をきっかけに起きた大恐慌を克服しようと、当時も国際社会はさまざまな対策を打とうとしますが、結局は各国が自国優先で「通貨切り下げ」などの保護主義政策を採り、悪循環に陥りました。ブロック経済化の中で日本とドイツが近隣諸国を侵略していきました。
トランプ氏が、多くの米国民をひきつけた「米国第一主義」という方針は、簡単に変わるようには思えません。米国が自国優先主義や保護主義に傾くのを押しとどめると同時に、他国にも広がらないよう努力する必要が、日本や各国にはあると思います。
また、トランプ氏が選挙戦で、中国や日本からの輸出を批判する姿は、貿易摩擦が激しかった1980年代から90年代初頭にかけての議論を彷彿させます。しかし、摩擦を乗り越え、今は格段に貿易が増え、各国の相互依存が進んでいます。こうした相互依存を通じ、米経済が最も利益を得ている実態をトランプ氏に理解してもらう必要があります。
一番心配なのは、トランプ氏が北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)だけでなく世界貿易機関(WTO)から脱退すべきだと発言していたことです。これは、米国が多国間主義に背を向けることを意味します。WTOが95年発足し、国家の間でルールに基づく紛争処理の体制が整い、中国もその判断を尊重しているにもかかわらずです。
米国は第2次大戦後、多国間主義を採り、指導的な立場を占めてきました。国連や、国際通貨基金(IMF)などのブレトンウッズ体制は、世界の安定を支えてきました。
米国が多国間主義に背を向け、危機がどこかの国で起きたときに、世界は有効な対応ができるのでしょうか。日本が果たすべきなのは、トランプ政権に、米国が主導してきた多国間主義が世界にとっていかに重要であり、米国自身がその大きな恩恵を受け、これからも受けるであろうことを繰り返し伝える役割です。そうした努力で、米国を多国間主義につなぎとめること。それが、トランプ氏とつきあう上で最重要の課題だと思います。
いずれにせよ、トランプ氏の動きには目が離せない。