今年のカープの快進撃は投打の噛み合い、若手とベテランの活躍等、選手の活躍がメインに語られているが、そもそも、前田健太(28歳、写真左)というエースを大リーグに放出、後を期待された大瀬良大地(25歳、写真右)は故障のため期待外れ。9月10日現在、11試合しか登板していない。大した補強もなかった今年のカープの快進撃の裏を探ってみたい。
●入札金20億円でチーム活性化/広島「マエケン売却」の効能(日刊ゲンダイ9月10日)
昨年15勝(8敗)した前田健太が、オフに入札制度でドジャース入り。エースの抜けた穴を危惧する声があったものの、今季のリーグ優勝は「むしろ前田が退団したおかげ」という指摘がある。
チームを出ていった前田にとっても、前田を失った球団にとっても、昨オフの入札は大正解だったようだ。前田はドジャース入団時の身体検査で肩と肘に異常が見つかって、年俸3億円と買いたたかれたものの、1年目から14勝をマーク。故障者続出の投手陣を引っ張って、いまやエース級の活躍をしている。
「新外国人4人のひとりであるジャクソン(29歳、写真)が勝利の方程式の一角を担うリリーフに定着したどころか、彼らの加入によってジョンソン(32歳)や、エルドレッド(36歳)がうかうかしていられなくなった。
さらにエースの前田がいなくなったことで、5年目の野村祐輔(27歳、写真)がひと皮むけた。2年目に12勝して以来、3年ぶりの2ケタ勝利で投手陣の柱に成長した。3年目の九里亜蓮(25歳)や2年目の薮田和樹(24歳)も、穴のあいたローテに食い込もうと目の色を変えた。
「若手投手による先発枠争いも熾烈になったのです」 「外国人も含めてチーム内部が活性化されたのです」と、放送関係者がこう続ける。
残留か引退か逡巡していた黒田に2億円アップの年俸6億円を払い、投打の柱であるジョンソンとエルドレッドをそれぞれ1億2500万円と1億500万円で引き留められたのも、20億円があったからこそ。
さらに入札金のおかげで投手2人と野手2人の新外国人4人を計2億5400万円で獲得できたことも大きかった。
球団に入った20億円の入札金を有効活用、なおかつエースがいなくなったことでチームが活性化したというのだ。
●助っ人バカ当たりのカラクリ/広島助っ人“ハズレ”なし 敏腕駐米スカウト2人の発掘力(日刊ゲンダイ9月10日)
●助っ人バカ当たりのカラクリ/広島助っ人“ハズレ”なし 敏腕駐米スカウト2人の発掘力(日刊ゲンダイ9月10日)
「自戒の念も込めて言いますが、広島が獲得する助っ人はどこの球団も知っている選手が多い。ジョンソンだってそうだ」
広島の外国人担当スカウトの印象について、ライバル球団の渉外担当がこう言った。
広島にはリーグ最多の14勝を挙げるジョンソンを筆頭に、エルドレッド、ジャクソンら優良助っ人が多い。
獲得を担当しているのがシュールストロム(47歳、写真左)とマクレーン(44歳、写真右)の両駐米スカウト。なぜ広島は「当たり」が多いのか。前出の渉外担当が言う。
「シュールストロムもマクレーンも的確に能力を把握し、絶好のタイミングで推薦すると評判だ。ジョンソンは13年の3Aアイランドリーグの最優秀防御率投手だが、同年終盤にメジャー昇格して結果を残せなかった。翌14年もツインズで3試合に登板し、0勝1敗で再びマイナー降格。3Aでは10勝しましたが、防御率は3・48と1点近く悪化した。各球団はこの成績を見てジョンソンの評価を下げたわけだが、シュールストロムはメジャーで結果が残せず、声がかからなかったことによる精神的ショックが原因であり、実力的には問題ないと判断したと聞いている」
両スカウトは、600人とも700人ともいわれるMLBの選手の発掘のため、全米を飛び回っている。在米の野球記者が「どの球場に行っても、彼らの姿を見る」と、こう言った。
「今は元助っ人の駐米スカウトがどの球団でも当たり前になっている。ただ、良い選手がいると聞けば見に行くというスカウトがほとんど。シュールストロムとマクレーンは、3年、4年という長いスパンで選手をチェックし、25歳以上の有望選手はほとんど把握しているともっぱら。スタンドで選手を見るだけでなく、マイナーの首脳陣や関係者からしっかり“取材”もしている。足を使った情報を得ているかどうかで、成功率は格段に違うはずです」
これからもカープの助っ人は怖いぞ。
ちなみに、シュールストロムは、最近ではバリントン(広島→オリックス)、サファテ(広島→西武→ソフトバンク)、ミコライオ(広島→楽天)を獲得している。
●広島したたかドラフト戦略/涼介と誠也の活躍にハム地団駄(日刊ゲンダイ9月10日)
広島の屋台骨となっているのは生え抜きの若手野手たち。5年目の菊池涼介(26歳)、4年目の鈴木誠也(22歳)、3年目の田中広輔(27歳)、9年目の丸(27歳)といったイキの良い連中が攻守に躍動して、チームを牽引している。
そんな若手野手たちの姿を、歯ぎしりしながら見ているのが日本ハムのフロントだという。
「ともにドラフト2位で入団した菊池と鈴木誠也は、日ハムが狙っていた選手だと聞きました」と、さる日本ハムOBがこう続ける。
「菊池は大学の日本代表合宿に参加しながら、メンバー落ち。狙い目の選手だっただけに、担当は密着マークして他球団の動向まで探っていたといいます。鈴木は二松学舎大付高時代、投手でしたが、身体能力が高く野手として高く評価していた。二松学舎大付のグラウンドは千葉の柏にある。二軍の合宿所の鎌ケ谷とさほど離れていないこともあって、それだけ確度の高い情報も入っていたそうです。
菊池も鈴木も3位までに指名する予定で、それでも取れる感触があったのに、フタを開けたら、2人とも広島が2位指名した。球団内部では『ウチの情報を流すスパイがいるんじゃないか』という声まで上がったそうです」
今季、ソフトバンクと優勝を争う日本ハムのチームづくりの根幹は「ドラフトと育成」。中でもドラフトに力を入れ、過去10年間でリーグ優勝4回、Bクラスはたった2回の好成績を維持している。
広島も同様、「ドラフトと育成」が身上。菊池や鈴木以外でも、例えば14年のドラフト2位で指名した薮田は亜大時代、公式戦の登板がほとんどなかった右腕だ。
そうやって他球団が目を付けないような選手を発掘して獲得、鍛えて一人前に育てる。生え抜きを主体に結果を出すチームは、それなりの企業努力をしているのだ。
一方、下位に低迷する阪神の例は悲惨のようだ。
●広島と正反対/阪神が払わされる“育成下手”の重いツケ(日刊ゲンダイ年9月9日)
一方、下位に低迷する阪神の例は悲惨のようだ。
●広島と正反対/阪神が払わされる“育成下手”の重いツケ(日刊ゲンダイ年9月9日)
8日の阪神は巨人に逆転負け。今季甲子園での巨人戦は開幕から10試合未勝利。
広島が優勝すると25年ぶりだが、阪神だって05年からペナントを手にしていない。阪神は山ほど補強に資金を使ってきても、10年以上もリーグ制覇さえできないのはなぜか。
08年1月、南信男前球団社長は年賀式での挨拶で「毎年、FAや外国人を補強できるわけじゃない。広島を見習って自前で選手を育てていきたい」と語った。しかし、その後も広島の丸や鈴木誠、中崎のようなバリバリの主力と呼べる高卒選手は育っていない。
「あの時、南さんはそう言ったが、裏を返せば球団に確固たる編成方針がなかったことになる。現有戦力のポジション、主力の年齢構成を把握し、3年先、5年先の戦力をどう整えるかを考えてドラフトや助っ人の補強に臨むのが本来の形です。広島のように、レギュラーに、若手、中堅、ベテラン、助っ人がバランスよくいれば、主力の入れ替えがあっても戦力がガクッと落ちることもないのに……」(球団OB)
■社長の母校後輩というだけで1位指名
阪神は星野監督時代から、助っ人とFA補強で戦力を整えてきた。育成をおろそかにし、ドラフトでは南社長の母校の後輩というだけで、慶大の伊藤隼太を1位指名した。この年のドラフトを例に出せば、2位歳内、3位西田も今季は戦力になっていない。広島が同年に取った右腕の野村は今季14勝でハーラートップタイ。2位菊池の働きもご存じの通り。
「阪神はいつも金を使うだけの安易な補強策でチームを編成してきた。そのツケを返すには長い年月が必要になる」(前出のOB)
和田前監督のクジ運の強さで獲得した藤浪も、同級生の大谷(日本ハム)に大きく水をあけられた。ダメ選手ばかりを取るフロントに、好素材を伸ばせない指導者たち。「広島を見習いたい」という、前社長の言葉をもう一度思い出すべきだ。
阪神はひどいチームになってしまった。
●新球場、カープ女子、新幹線 広島人気は“営業努力”の賜物(日刊ゲンダイ9月9日)
広島といえば、かつては不人気球団。本拠地の市民球場は空席の方が目立ち、一部の熱狂的なファンに支えられていると言っても過言ではなかった。
転機となったのが09年、新設されたマツダスタジアム(写真)への移行だ。この新球場を造るにあたって、広島は10年以上前から球団職員をメジャーに派遣し、さまざまな球場を参考にした。
観客席もバーベキューテラスや掘りごたつなどを増設。球場外にはお化け屋敷まで誘致したから、単なる野球観戦だけにとどまらないボールパークとして人気を博している。
13年に初のCS出場を果たすと、翌14年からは「カープ女子」(写真)が社会現象化。球団も若い女性を取り込むための企画を次々に打ち出した。
そのひとつがが14、15年の貸し切り新幹線だ。東京在住のカープ女子のため、新幹線を1本「貸し切り」とし、参加費5000円で抽選に当たった女性ファン約1300人を招待。球団にとって数百万円の赤字企画だったが、それを補って余りある宣伝効果をあげた。
もちろん、現在の広島フィーバーは長年にわたる営業努力のたまもの。ローマは一日にして成らず、広島カープもまたしかり、だ。
●赤ヘル商戦、広島以外も コラボ商品好調、特売も予定(朝日新聞、9月7日)
東京・銀座にある広島県のアンテナショップ「広島ブランドショップTAU(タウ)」は、記念イベントを企画。
優勝の翌日から3日間、カープログイン前の続きグッズや広島の特産品をつめた5千円相当の福袋を2500円で販売する。初日は、前回優勝した1991年生まれの「カープ女子」らが日本酒をふるまう。建物に入る飲食店も飲み物や焼きガキの割引を予定する。
各地の小売店もセールの準備に追われる。関東と西日本を中心にコンビニ「ポプラ」や「生活彩家」を展開するポプラ(広島市)は優勝決定後、全店で商品の割引などを実施する。
中四国と九州で商業施設「ゆめタウン」などを出店するイズミ(広島市)は優勝の翌日から、広島、岡山、香川、徳島の全店と山口と島根の一部の店でセールを始める。九州の店ではパ・リーグ首位の福岡ソフトバンクホークスの優勝セールを準備しており、「両チームが日本シリーズで対戦することになれば最高」(広報)と期待する。
ブームに乗って、球場では見かけない関連グッズも次々と現れている。
カープ優勝の裏には、こんな努力もあるんだね。
それでは、最後に。