今年、ある友人の年賀状を見てオヤッと思った。こんなことが書かれてある。
「当方、積年の不摂生がたたって昨年師走から体調不良となり、回復に勤しむ今日となっております…」
早速電話してみた。「どうしたの?」
「実はがんになっている」という、思いもよらない答えが返ってきた。
足が血栓により腫れたので治療をしていたところ、すい臓がんと肝臓がんが見つかった。昨年の11月、そのとき医者から余命2ヶ月から6ヶ月という宣告まで受けたのだそうだ。
既にその最短の余命は過ぎている。
電話の声からは落胆した様子は伺えない。とても元気そうだ。今も週一だが会社に行って働いているという。
彼は以前の会社の人事部の仲間で、その後、子会社の人材紹介(派遣)会社に転出した。
そのとき、自分がある会社で定年を迎え、職を探していたときに、今の会社を紹介してくれた大恩人である。
もっとドラマチックなことを付け加えると、自分を紹介してくれたのを最後に、彼の勤めている人材紹介会社は解散し、当然彼も会社を辞めた。
運命は皮肉だ。自分は今でもフルタイムで彼が紹介してくれた会社で勤めている。
そして、昨年は両者が同時期に病気を患った。彼は血栓、自分は心筋梗塞。彼はその後ガンが見つかり余命宣告を受け、自分は術後の経過もよく、生きながらえている。
先週の水曜日(1月22日)東京駅で待ち合わせて彼と会った。電話の声と同じで、元気そうに見えた。
正確にいうとこれではなかったが、こんながんの進行度(ステージ)の表を見せてくれた。
横軸はリンパ節の転移の有無(N因子)、縦軸は原発巣の大きさ(T因子)を指す。
彼は、T4の右の方に位置するのだそうだ。
これからどうしたらいいかという問いに対して、医師からはこんな風に言われているらしい。
「特に何も気をつけることはありません。自由に過ごして下さい」
奇跡は起こりうる。
それを信じて彼はそんなことが書いてある記事のコピーと、一冊の本を見せてくれた。
分かれ際に、彼は言った。
「これからも会って欲しい。人と話すことが好きなので、何もしないで家にいるよりもその方が元気になる」
もちろん、お安い御用だ。
お酒が好きだった。いつも飲み過ぎていた。帰り路が分からなかったことは一度や二度ではない。酔うと「おねえ言葉」になる。率直だったので自分とはウマがあった。
4年位前だろうか、昔の仲間が4人、新宿に集まったことがある。
始まりは確かお昼の1時頃だったが、話が盛り上がりそのレストランを発つときはもう夜になっていた。むくつけきおじさん連中の長居に、お店の人もさぞやびっくりしたことだろう。
その内の一人は既に他界した。あれだけ飲んだというのに、その人と彼は新宿の夜のとばりに姿を消したと聞いたので驚いた。どうやって家に辿りついたか分からなかったという。
今はお酒は一滴も飲めないそうだ。
奇跡を信じたい。そして、それで少しでも元気になれるというならいつでも会うよ。