前作お酒の話で、困ったお店の例を出したが、自分の記憶を呼び覚ましてみた。まあ、あまり話すほどのことでもないが、いくつか苦い思い出を。
よく通うラーメン店はいつも繁盛している。最近は支店もいくつか出しているので従業員がよく代わっている。
あるとき、いつものようにネギラーメンと中ジョッキのビールを頼んだ。注文を受けたのは新しい店員(女性)だ。
しかし、いつまで経っても肝心のラーメンが来ない。しびれを切らして「ラーメンはまだ?」と言ったときの返事が奮っていた。
「ビールしか飲まないのかと思っていた」
おいおい、いくらなんでもラーメン屋に行ってビールだけ飲んで帰る客は滅多にいないだろう。それとも、自分はビールだけ飲んで帰るほどの酒好きに見えたの。
頭に来て、当分そのお店には行かなかった。それでもラーメンは美味しい。何ヶ月かぶりに恐る恐る行くと彼女は姿を消していた。
それはそうだね。こんな子が接客しているとトラブルの元だもんね。多分また客と問題を起こしクビになったんだろうと勝手に想像して納得したものだった。
2.自分と同じ歌を歌ったスナックの店長
初めて行ったスナックでの出来事。大分前のことなので、曲は定かではないが、「星降る街角」(映像)だったと思う。
自分が歌った後、すぐにそこのスナックの店長が同じ曲を歌った。
思わず耳を疑った。いくらなんでもそれはないだろう。
もちろんそのお店には二度と行かなかったことは言うまでもない。
特になぎら健壱は文章も上手いし、とぼけた性格がかもしだすお酒の体験談は抱腹絶倒間違いなし、電車の中で読んではいけません。
彼も困ったお店は何度も経験している。いくつか紹介してみよう。(要約)
1.一見(いちげん)はお嫌いですか?
カウンターに腰を下ろすと同時に注文を取りに来た女将がなぜか嫌な顔をした。
やがてポツリポツリと、スーツ姿の勤め人が空席を埋め始めた。多分常連なんだろう。
そのうちにテーブル席はほとんど埋まり、残すはカウンター客だけになってしまった。
そこに新たな客が来た。女将は何も言わず我々のグラスを手に取ると「こっちへ移って下さい」と、カウンターの一番端の席に移動させる。
「おいおい待てよ、一言ぐらいあってもいいんじゃないの?」そう思いつつも、我々は無言でそれに従った。
またネクタイの客がドアを開けた。中を伺うと空席は既にない。あきらめて帰ろうとしたその客に女将が声をかけた。「○○さん大丈夫、座れますよ」
女将は再び我々のグラスを手にすると、厨房のすぐ脇の冷蔵庫の前にそのグラスを置いた。そして奥から丸椅子をもってくると「こっちへ移って下さい」と、そこに置いた。
我々は言葉もなく、冷蔵庫の横っ面を眺めながら、美味くもない酒を黙々と飲んだ。
後日その店の前を通ったとき、店は消えてなくなってしまっていた。ざま~見ろ。
2.食事は味わって
打ち上げで入ったのがシャブシャブ屋だった。人数分の生ビールが出てくるまで15分以上かかったとき、どうも嫌な予感がした。生ビールでさえそうなのだから、シャブシャブが出てくるまでの時間は察しが付こうというものである。
やがて生ビールも飲み干し、お代わりを注文しようと、カウンターに座っているオネエさんに声をかけた。ところが「すみません」と何回声をかけても、オネエさんは振り向きもしない。
やがてオネエさんの前にはシャブシャブ鍋と、皿に乗った肉が運ばれてきた。するとこともあろうにオネエさん、肉をシャブシャブすると、それをオカズにご飯を食べ始めたではないか。
ーマカナイ?
マカナイはいいけど、まずはお客さんの注文を取るのが先じゃないの?
「すいません」再び声をかけるのだが、オネエさんは全く意に介さず、美味そうにシャブシャブに箸を運んでいる。しかも実に美味そうに…。
我々は空のジョッキを目の前に、指をくわえてオネエさんの食事シーンを見ていた。
もし、あの店がまだ営業を続けているというのなら、それは奇跡としか言いようがない。
植木等/スーダラ節(1961年)
森本和子/酔いどれ女の流れ歌(1970年)
柳ジョージ&レイニー・ウッド/酔って候(1978年)
木村充揮&近藤房之助/ぐでんぐでん(1980年)
吉幾三/酔歌(1990年)