ここのところ、電通の事件などで過重労働のことがクローズアップされている。
話題の映画「この世界の片隅で」(写真左)は戦時中のことだったが、サザエさん一家(写真右)も父は遅くまで働かず、みんなの待っている家に帰ってきたものだ。その頃が懐かしい。
日本人がみんな遅くまで働くようになったのは、高度成長期が始まったころからだろうか。
根性論がもてはやされ、1969年のCM「丸善石油 Oh!モーレツ」では、猛スピードで走る自動車が巻き起こした風で、小川ローザ (現在70歳)のミニスカートがまくりあがり、「Oh! モーレツ」と叫ぶ内容で一世を風靡した。これが「モーレツ社員」という言葉のハシリだった。
そして、1988年、武田薬品工業の「アリナミンV」に対抗する形で発売された、三共製薬(現:第一三共ヘルスケア)のドリンク剤「リゲイン」。
歌の中にも出てくる「24時間戦えますか」というキャッチフレーズ(写真)が流行語にもなった。
牛若丸三郎太(時任三郎)/勇気のしるし~リゲインのテーマ~
当時は確かに無茶苦茶だった。営業マンだったが、所長からは「売れるまで帰って来るな!」と怒鳴られ、午前様になることもたびたび。ところが、記憶が薄れたせいか、そんなに苦にならなかったような気がする。
そのころ過労死という言葉を知らなかった。ひたすら「企業戦士」としてひたすら夜遅くまで働いていた。
ブラック企業という言葉はバブル崩壊のころから言われるようになった。しかし、そのあと政権を握った民主党が、労働組合と仲の良かったはずなのに、どうしてこの問題に手を付けなかったのだろうか。理解に苦しむことだ。
そして、今、政府から問題提起されたこと自体が、今の労働組合の力不足というか不甲斐なさをまざまざと見せつけてくれる。
自分は長い間管理部門の責任者をしていたので、過重労働には頭を痛めていた。
日本人の悪い癖で、電通が死者を出したので社会問題化したからといって、一過性のものにしてはならないが、かといって簡単に解決できるものではないと思っている。
マスコミはいろんな対策を言っている。ワークシェアリング、長い会議ややりすぎ資料、過剰サービス、24時間営業の廃止…。そのマスコミ自体が過重労働の元凶ではないか。
それにつけても、日本人は勤勉というのが定評だが、本当だろうか。それは一部の人たちだけではないか。
日本生産性本部・労働生産性の国際比較2016年によると、下図の通り、世界の中で日本は決して高い水準ではない。時間の使い方が悪いのではないか。
●ワークシェアリングについて、なぜこれまでうまくいかなかったのか。
それは二つの理由による。まずは残業の実態が不正確なこと、つまりサービス残業が蔓延しているからだ。
もう一つは、個人間に能力の差があるから。残業分の人数を単純に増やせばいいというものではないこと。
残業の多い人にも二つの訳がある。仕事ができる人に仕事が集中する。しかし、ミスや能力が低い場合も残業が多くなる。両極端な理由があるのだ。
●大体、勤務の実態が正確に記録され、会社から働いた分まともに残業代が支払われているのだろうか。
昨年末まで在籍した会社のコンサルタントは、「中小企業ではまともに残業代を払っているのは10社に1社ぐらいだ」と言っていた。当社もそうしろといわんがばかりだった。
年俸制だとか営業手当だとか裁量労働制だとかあるが、これも残業代を払わない隠れ蓑になっているきらいがある。経営者の方、これも残業の実態を無視した手当は違法ですよ。
●社員自体が残業を減らして欲しくないという問題もある。過重労働なんて勝手に国が言っているだけでしょうという声もあることも事実だ。
要は、特に中小企業は、基本給が安いため、一定以上の残業代が無ければ生活が出来ないという切実な問題があるからだ。
以前いた会社はリーマンショックに見舞われ、危機に陥った。それで、残業は基本的に中止としたが、残業で生活を維持していた社員も多く、そのときはアルバイトを認めた。
●今度は逆に、中小企業の多くは残業を減らそうにも、人を雇わなければならないとか、かえって経費がかさんでいくばかりで経営危機が訪れる心配がある。
特に、下請け業者は元請けから無理な納期を求められ、残業しませんということが現実的に可能かどうかということだ。
厚労省の過労死等防止対策白書によると、仕事疲れなど勤務問題を原因・動機の一つとする自殺者は、2011年をピークに減ってはいるものの、15年には2159人に上ったそうだ。
政府は経済界とタッグを組み、2月24日から「プレミアムフライデー」を実施する。毎月末の金曜日に仕事を早めに切り上げ、買い物や食事、小旅行を楽しんでもらうことで、停滞する個人消費の拡大とともに、長時間労働を是正し、働き方改革につなげることが狙いだという。
●インターネット検索大手のヤフーでは従業員の生産性向上へ向けて週休3日制の導入の検討を始めた。ヤフー広報担当の八木田愛実氏によると、同社は昨年の本社移転にあわせて在宅勤務の日数を従来の月3回から5回に拡大するなど、改革を進めてきた。
●ファミリーレストランチェーンを展開するすかいらーくは、働き方改革の一環として深夜営業を大幅に縮小する方針を打ち出した。午前2時から午前5時までの深夜時間帯に営業している987店のうち約8割の店舗で原則的に午前2時閉店、同7時開店として営業時間を短縮するという。同社は深夜の客数減少傾向を受けて13年に約600店の営業時間を平均2時間短縮したが、今回は営業上の理由ではなく従業員のワークライフバランス推進を目的としているという。
●京都市に本社がある電子部品メーカー、日本電産も20年までに残業ゼロを目指して従業員の働き方改革に着手した。創業者の永守重信社長は1日16時間働き、元日の午前中しか休まない猛烈な働きぶりで知られ、永守氏によれば、かつては「死ぬまで働けとか朝までやれと言っていた会社」という。
2000年代以降買収を進めた海外企業がゆとりのある労働環境でも好業績を上げているのを見て、日本企業の働き方に疑問を感じるようになり考え方を変えたという。仕事の能率向上のためのシステムなどに約100億円を投資するほか、自らを含めて必要な仕事と不必要な仕事の見極めを進めてきた。「日本の会社は長い間残業が当たり前だった。もういっぺん見直したらそんなことまったく必要ない」ことがわかったと永守社長は6日の記者会見で述べた。
永守社長は、改革の目的はあくまで生産性の向上であり、労働時間の短縮にばかり関心が向くことはよくないとし、政府には生産性の向上を最優先に「日本を先進国並みの生産性の国にする」ぐらいの気概を求めたいと話した。
残業を減らすにはその前にいろいろな改革をしなければならない。
改革を経ないで見た目に残業が減ったことで満足することは、「サービス残業を増やす」ことになりかねないし、電気を消して退社を促すことは「家に仕事を持ち帰る」ことになりかねない。
内部留保をたっぷり抱えている大企業では残業削減は可能かもしれないが、日本で圧倒的に多い中小企業はとても大きなハードルだと思う。
政府は助成金を出すとか、思い切った施策を講じてほしい。